東フィンランドのユニークな巨大サウナ施設「SAANA(サーナ)」
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こばやしあやな(フィンランド在住サウナ文化研究家 コーディネータ)
フィンランド中東部に位置する、北サヴォ県の中心都市クオピオ。少し中心街から歩くだけで、フィンランドと聞いて多くの人がイメージする、風光明媚な森と湖がどこまでも広がっています。また、数年前までワールドカップ開催地でもあったスキージャンプ台がそびえ立つ街としても有名です。2019年春、このクオピオの街外れにユニークな巨大サウナ施設ができ、サウナ愛好家のあいだで話題になりました。施設の名前はSaana(サーナ)。実はクオピオの位置するサヴォ地方は、国内有数の癖の強い方言が話されるエリアで、サウナのこともサヴォ弁ではサーナと聞こえてしまうのだそう。
建物は、中心街からバスで10分ほど北に進んだ先にあるカッラヴェシ湖畔の、まさに水際をまたぐようにつくられています。テラスの先には、遊覧船や自家用ボートが停泊できる桟橋も伸びており、夏の間は湖を突っ切ってやってくる人も迎え入れます。この大型施設の目玉は1000㎡の敷地面積を誇るサウナ・スパですが、総計1000人のキャパシティを備えた2階建てレストラン・テラスも併設。平日の日中は、サウナ入浴客だけでなく、景観の良いテラスでのランチビュッフェを目当てにした地元客や、可動式の間仕切り機能をもつキャビネットで会議をするビジネスマンも利用しに訪れます。
デッキから建物の全景を見渡すと、この巨大建築にして、壁材はなんと横積みのログ材。帆のように張り出したテラス屋根とともに、建物全体が昔ながらのセーリングボートの形状に見立てられているそうです。これは、クオピオに事務所を構えるQVIMアーキテクトという設計事務所と、ログ建築に関してフィンランド屈指の技術と経験を誇るホンカ社が手を組んで実現した大型木造建築。壁や屋根からテラスデッキに至るまで、フィンランド国内でPEFCラベル(持続可能な方法で管理された森林から伐採された優良木材の証)を得たマツやトウヒ材がふんだんに使われているので、周囲の自然景観とも馴染みがよく、壮大ながらも威圧感がありません。
さて、それではフィンランド文化の象徴でもあるサウナ・セクションの全容をご紹介しましょう。フロントでロッカーキー代わりになるリストバンドを受け取って、まずは男女別更衣室に移動します。フィンランドの公衆サウナは、伝統的には男女別で裸入浴で、まさに日本の銭湯と同じスタイルが主流でしたが、近年はカップルや家族で一緒に入りたいというニーズや、セクシャルマイノリティの人たちへの配慮から「水着着用で男女混浴」というサウナ施設も増えており、サーナもそのスタイルをとっています。ですから、持参した水着を来てシャワー室を出たら男女同じ浴場に合流。まずは、本館内にある電気ストーブのサウナ室で、フィンランド・サウナを特徴づける「ロウリュ(サウナストーブからでる蒸気を指す言葉)」の心地よさを体験しましょう。
実は、通常のフィンランド・サウナでは、室内に水を張った桶と柄杓が置いてあり、入浴者自身がストーブの上に乗った焼け石に水を打って、空間に充満する熱々の蒸気を浴びます。ですがサーナのサウナ室は、最大30人が入れるかなり大きなつくりで、客席からストーブに水を届けるのが大変なので、なんと、前代未聞の「押しボタン式」となっています!ベンチの何箇所かに、バスの降車ボタンのようなものが設置されており、誰かがボタンを押すたびにストーブ上部のノズルからシャワーが降り注ぎ、焼け石から蒸気を発生させる、という仕組み。なんともモダンでお手軽です。
サウナ室は湖側の壁一面がガラス張りとなっていて、景色を眺めるシアターのような開放的かつ一体感のある雰囲気。広々としていますが室温はやや高めで、ロウリュとのかけ合わせでしっかり汗をかける設定となっています。身体が芯まで温まったと感じたら、無理せず退室してシャワーで冷水を浴びたり、室内、室外それぞれに計3箇所あるジャグジーやプールに浸かって、身体をゆっくり冷却しましょう。デッキの縁につくられた、まるでその先の湖へと水面がつながっているように見える通称「インフィニティプール」がおすすめです。また屋外テラスには、太陽の下で気持ちよく寝そべることのできるデッキチェアがたくさん並んでいるので、熱いサウナと冷水浴のあとは、ゆったり外気浴で小休憩。併設カフェバーから飲み物や軽食をオーダーすることも可能です。
そしてサーナの誇るもう一つの本格サウナが、水際に立つ小さな塔のなかに収まったスモークサウナ。スモークサウナは、蓄熱性抜群の巨大薪焚きストーブを延々焚くのに、排煙装置を持たない原始的な形態のサウナです。事前に有害な煙だけは逃してあるのでご安心を。香ばしい薫香に包まれるだけでなく、電気ストーブよりも一際柔らかで繊細なロウリュを満喫できます。通常、スモークサウナは5〜8時間もかけて薪を燃やし続けて準備をするのですが、サーナでは人が薪を投入する代わりに機械で木質ペレットを定期的に送り込み、全自動で燃焼させています。だからこそ、朝から焚きたてのスモークサウナを楽しむことができるのですね。
室内は伝統に則り最小限の間接照明だけでほとんど真っ暗。壁がスモークで煤けているので、いっそう暗く感じます。また、昔ながらの2階建て式になっていて、ストーブは下に、ベンチは階段を上った先に。2階から水をゆっくり「落とす」ことで、じゅわあっと芳醇な蒸気が天井まで立ち上ってくるの全身で味わいます。この伝統と最新技術を融合させたエコ・スモークサウナは、国際スモークサウナクラブが選ぶ2019年のベスト・スモークサウナ賞も受賞しているので、ぜひとも体験しておきたいところ!
そして、伝統あるスモークサウナと合わせて欠かせない体験が、サウナから湖への直行ダイブです。スモークサウナの入口の前から伸びる階段を降りれば、そこからもう広い湖のはじまり。夏なら水温も20度ちかくまで上がるので、しばらくのあいだプカプカ浮いたり泳いだりしていられますし、湖が凍る真冬でも、階段付近の湖だけはアヴァントと呼ばれるアイスホールが開けられていて、かろうじて凍っていないキンキンの天然水で身体を瞬間冷却できます。そんなの絶対無理だろうとお思いの方にこそ、是非チャレンジしてみてほしいですね。無理に説明しませんが、とにかく思いがけない心地よさが待っているので!
このような一般向け公衆サウナのほかに、サーナにはなんと、会議室とセットになった予約制の貸切りサウナ室もあるんです。商談のあとは同僚やビジネスパートナーをも巻き込んでみんなでサウナへ…という、フィンランドのびっくりする風習がここでも垣間見られます。ぜひいつか、建築素材から施設サービスに至るまでフィンランドらしい所見がたくさん詰まったサーナを訪れに来てくださいね!
SAANAの施設全体はこちらの動画でご覧いただけます